NHK土曜ドラマ『地震のあとで』の劇伴音楽を担当しているのは、名作ドラマでも知られる作曲家・大友良英さんです。
『あまちゃん』や『いだてん』などの作品で高く評価されてきた彼が、本作では静寂や余韻を巧みに操り、登場人物の心情やドラマの“間”を繊細に表現しています。
この記事では、『地震のあとで』の音楽や劇伴制作の裏側、参加ミュージシャンの情報まで詳しく紹介していきます。
- NHKドラマ『地震のあとで』の音楽担当と劇伴の全貌
- 大友良英と実力派ミュージシャンによる繊細な音作り
- 静寂と余韻を活かしたドラマ演出と音楽の関係性
地震のあとでの音楽担当は大友良英
NHKドラマ『地震のあとで』の音楽を手がけたのは、日本の音楽シーンを牽引してきた作曲家・大友良英さんです。
彼の音楽はドラマの空気感を彩り、登場人物たちの心の動きや、震災後の30年という時の流れを情感豊かに描き出しています。
劇中の“間”に込められた意味や静寂の演出に注目が集まり、大友氏ならではの世界観が高く評価されています。
大友良英さんは、即興音楽やジャズをルーツとしながら、テレビドラマや映画、舞台など多岐にわたるジャンルで音楽制作を手がけてきました。
特にNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の音楽で一躍有名となり、親しみやすさと実験的な音作りの融合が多くの視聴者に感動を与えました。
今回の『地震のあとで』でも、彼の音楽的アプローチは健在です。
劇中では、大きな音ではなく“静けさ”そのものが登場人物たちの感情や、喪失の余韻を語っています。
そのため、セリフや動きの少ないシーンでも、音楽が持つ余白の力によって深い感情が表現されています。
音楽というより「空気を演出する音」という感覚に近く、非常に繊細な音設計がなされています。
NHKドラマ常連の作曲家が手がける劇伴
大友良英さんは、NHK作品において常に高い評価を得てきた劇伴作家の一人です。
彼の名前を見れば、「このドラマは音楽にも注目すべきだ」と期待する視聴者も少なくありません。
NHKが彼に再び依頼をしたのは、震災という重いテーマに対し、感情を押し付けずに伝える音楽的手腕を高く評価してのことだと考えられます。
過去には、2013年の朝ドラ『あまちゃん』でユニークな劇伴と挿入曲を手がけ、その後も『いだてん』や『この世界の片隅に』など話題作の音楽を担当してきました。
物語と同化しながらも、印象に残る旋律を生み出すことに長けており、視聴者の記憶に残る作品に仕上げてきました。
今回の『地震のあとで』でも、台詞や演出と絶妙に調和した劇伴が、登場人物の心の揺れや空気感を一層引き立てています。
また、NHK作品で大友氏が起用される理由の一つに、社会的テーマに対する真摯な姿勢も挙げられます。
ただ美しい音楽を奏でるのではなく、視聴者とともに問題に向き合い、“感じる音”を届ける点が、多くの制作者から信頼を集めているのです。
その姿勢は、今回のように“震災後”という長い時間軸を扱う作品において、非常に重要な意味を持ちます。
あまちゃん・いだてんでも話題に
大友良英さんの名前が一躍広まったのは、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年)での音楽担当としての大成功がきっかけでした。
ユーモラスで元気なメロディーラインと、心に残るテーマ曲「潮騒のメモリー」は多くの人に愛され、音楽が物語の大きな軸となりました。
その後も、音楽性の高さと物語への溶け込み方が評価され、NHK大河ドラマ『いだてん』でも劇伴を担当することとなります。
『いだてん』では、時代背景が異なる2つのストーリーを音楽で橋渡しするという極めて難しい役割を担いました。
スポーツと歴史、人物と時代が交錯するドラマを音楽で一つにまとめる手腕は、業界内外から高く評価されました。
さらに、『この世界の片隅に』や『花燃ゆ』など、社会的背景を含む重厚な作品においても、彼の音楽は静かな感動を呼び起こしています。
これらの作品に共通しているのは、「音楽が主張しすぎないこと」。
大友氏の劇伴は、登場人物たちの“気配”や“心の余白”を丁寧にすくい取ることで、視聴者の感情に自然と寄り添う役割を果たしています。
そうした作風は、まさに『地震のあとで』というテーマにふさわしく、彼が起用された理由がよくわかります。
劇伴制作に参加したミュージシャン一覧
『地震のあとで』の音楽は、大友良英さんのソロワークではなく、彼が信頼を寄せる精鋭ミュージシャンたちとのコラボレーションによって生まれました。
作品全体を通して静寂と余韻を操る音楽は、各メンバーの感性が集結した結果でもあります。
それぞれの演奏家が持ち味を発揮し、繊細な音世界を構築しています。
今回の劇伴制作には、以下のような実力派ミュージシャンたちが参加しています:
- 江藤直子(ピアノ):柔らかなタッチで感情の波を表現
- 近藤達郎(キーボード、ハーモニウム):情景を織りなす静かな空気感を演出
- かわいしのぶ(ベース):重厚な低音で空間を支える
- イトケン(ドラムス):テンポではなく“呼吸”で音を刻む
- 高井康生(ギター):さりげない旋律で情緒を添える
これらのメンバーは、大友氏のプロジェクトにおいて長年にわたり共演を重ねてきた仲間でもあります。
演奏だけでなく、作品の意図を共有しながら音を紡ぐ関係性があるからこそ、共鳴するようなサウンドが生まれています。
音を重ねるというより、“空白を共有する”ような音作りが、本作の音楽の根底に流れています。
江藤直子・近藤達郎など豪華メンバーが集結
『地震のあとで』の音楽を支えるのは、日本の音楽シーンで第一線を走るミュージシャンたちです。
とくにピアノの江藤直子さん、キーボードの近藤達郎さんは、大友良英氏の音楽に欠かせない存在です。
彼らの演奏が持つ独特の“間”や“余白”が、ドラマの静かなシーンと深く共鳴しています。
江藤直子さんは、クラシックから現代音楽まで幅広いジャンルに対応できるピアニストです。
情感豊かな演奏と、沈黙を音に変える力で知られており、今回のドラマの持つ空気感を見事にピアノで表現しています。
彼女の旋律はセリフのない場面で、登場人物たちの想いを代弁しているかのようです。
一方、近藤達郎さんはキーボードとハーモニウムを担当。
彼の音はどこか懐かしさと温もりを感じさせ、震災という重たいテーマを和らげる“音の居場所”を与えてくれます。
また、ハーモニウムによる揺らぎのある音色は、時の流れや心の揺れを象徴するように響きます。
これらの演奏家たちは、音数の多さで感情を演出するのではなく、「必要最小限の音で最大限の感情を伝える」という手法で、深く印象に残る音楽を作り上げています。
それぞれの演奏が主張しすぎず、それでいて確かな存在感を放っている点が、本作の音楽の最大の魅力です。
各パートにおける音の役割とは
『地震のあとで』の劇伴は、単にBGMとして流れるのではなく、各楽器の音がストーリーの一部として機能しています。
それぞれのパートには明確な“役割”があり、感情や場面の空気を丁寧に支えています。
ここでは各パートの特徴と、その役割について詳しく見ていきましょう。
ピアノ(江藤直子)は、静かな場面での感情表現の軸を担っています。
繊細なタッチで演奏される旋律は、語られない心の声や、時に癒し、時に不安を表現します。
ピアノの間の取り方が、登場人物の内面に寄り添うように設計されており、「音のセリフ」とも言える存在です。
キーボード・ハーモニウム(近藤達郎)は、時間の流れや空間の広がりを演出します。
特にハーモニウムは、日常に潜む非日常の気配を漂わせるような音色で、場面の緊張感や切なさをにじませます。
物語の奥行きを作る上で、欠かせない音の土台を築いています。
ベース(かわいしのぶ)は、見えない感情の重さを支えるパートです。
低音がもたらす安定感は、視聴者の無意識に安心感や哀しみを訴えかける効果があります。
登場人物たちが抱える喪失感や再生の希望を、静かに下支えしているのです。
ドラムス(イトケン)は、リズムよりも“間”を演出する役割です。
一定の拍子ではなく、場面に応じた“呼吸”のようなタイミングで入る音が、視聴者の感情を誘導します。
まさに、「時間の感覚をコントロールする音」と言える存在です。
ギター(高井康生)は、シーンに静かな感情を添える存在です。
鋭さや派手さを抑えた柔らかな音色が、ノスタルジーや心の揺れをさりげなく表現しています。
まるで風景の中に溶け込むようにして、ドラマの世界観を豊かにしています。
静寂と余韻が語る“間”の演出とは
『地震のあとで』の音楽が多くの視聴者に深く刺さった理由の一つが、“間”の美しさにあります。
音が鳴らない時間、つまり静寂の中にこそ、ドラマの本質が語られていると言っても過言ではありません。
その“間”を支えるのが、劇伴音楽の絶妙な配置と余韻の設計です。
通常のドラマでは、場面転換や感情の起伏を音楽で強調することが多いですが、『地震のあとで』ではそれとは真逆のアプローチが取られています。
音がないことによって、逆に視聴者が“聴こえる”ものを感じ取る構成となっています。
たとえば、震災後の静かな町の風景や、失った人を思う沈黙の時間など、音楽の「不在」が物語を語っている瞬間が多くあります。
これはまさに、大友良英氏の「音楽=存在を押し出すものではなく、共鳴しながら空気に溶け込むもの」という哲学が反映されています。
そのため、視聴者は気づかぬうちに音楽の世界に引き込まれ、感情の波に揺さぶられていきます。
“無音の中に存在する音”――それこそがこのドラマの最大の魅力です。
また、余韻の使い方も非常に巧妙です。
一つの音がフェードアウトしていく時間に、視聴者の思考や感情が流れ込むような空白が用意されています。
この余韻があるからこそ、ドラマのシーンが終わった後も、その意味や感情が心の中に残り続けるのです。
セリフのない空間を彩る劇伴の力
『地震のあとで』の物語には、あえてセリフを排除した“静かな時間”が数多く登場します。
その沈黙の中で、視聴者の感情を導く役割を担っているのが、まさに劇伴音楽です。
音楽が言葉の代わりとなり、登場人物の思いを伝えてくれるのです。
特に印象的なのは、登場人物が誰かの記憶をたどるシーンや、何気ない風景を映す場面での音楽の使い方です。
たった一音のギター、わずかなピアノのフレーズ、あるいは音が“ない”という選択が、数分にわたる感情のドラマを描いています。
それにより、言葉では伝えきれない“思い”を視聴者に委ねる構造が成立しているのです。
このような構成は、通常のテレビドラマでは非常に稀です。
つまり本作は、音楽を背景に流すのではなく、“語らせるための音”として劇伴を用いている点が最大の特徴です。
その結果、視聴者は自らの記憶や体験を重ね合わせながら、登場人物と心を通わせるような視聴体験が得られます。
このセリフのない空間でこそ、音楽が持つ「共感の力」が真価を発揮しています。
言葉の代わりに感情を繋ぎ、人と人の“間”を満たす役目を果たしているのです。
視聴者に余韻を残す音楽の仕掛け
『地震のあとで』の音楽には、視聴後も心に残る“余韻”の設計が巧みに施されています。
これは単なる劇中の演出ではなく、視聴者の感情に長く作用するように計算された仕掛けです。
音楽が終わった“あと”に感じる何か――その残像こそが、作品全体のテーマと深く結びついています。
大友良英さんは、あえて主旋律のない“モチーフ”や“音の断片”を多く取り入れています。
それにより、音楽が具体的な情景を描くのではなく、記憶や感情を呼び起こすトリガーとして機能するのです。
この手法は、聴く人によって解釈が変わり、それぞれの中に“自分だけのストーリー”を残すという効果を生み出しています。
また、音の“余白”も計算されています。
音が消えていく瞬間や、無音に至る“移行の時間”が非常に丁寧に作られており、その余韻が視聴後の思考を深めるきっかけとなっています。
まさに「音楽が鳴り終わった後の沈黙」こそが、最も雄弁に語っているのです。
さらに注目すべきは、エンドロールでの音楽演出です。
本作では、過剰な主題歌を用いず、劇伴の延長線上にある静かな音楽が流れます。
それにより、物語の余韻が切れずに視聴者の心に染み込んでいく構造が完成しています。
地震のあとでの音楽・劇伴まとめ
NHKドラマ『地震のあとで』は、そのストーリーと演出に加え、音楽の力が非常に大きな役割を果たした作品です。
大友良英さんを中心としたミュージシャンたちの手によって紡がれた劇伴は、言葉では語り尽くせない感情や空気を丁寧に描いています。
それはまさに、震災という重く、そして繊細なテーマにふさわしい“音の演出”だったといえるでしょう。
このドラマでは、音楽が決して前に出過ぎることはありません。
しかし、気づけばその音に心を揺さぶられ、登場人物と感情を共有している――そんな瞬間が何度もありました。
静けさの中にある音、余韻に残るメッセージが、視聴者に深く訴えかける仕掛けとして機能しています。
今後、ドラマ音楽のあり方を再考する際に、『地震のあとで』の劇伴は一つの指標になるでしょう。
大友良英氏とその仲間たちによる、“空間”と“沈黙”を音楽でデザインする手法は、映像と音の関係に新たな視点をもたらしてくれました。
静かながらも確かな存在感を放つ音楽の力を、ぜひ一人ひとりが感じ取ってほしいと思います。
音楽が支えるドラマの世界観と演出
『地震のあとで』の世界観は、静かながらも強く、繊細で深い感情が交差する構成になっています。
その背景を形作っているのが、音楽という“見えない演出”の力です。
物語の語り口と密接に結びついた劇伴は、映像と一体となり、視聴者により深い感情移入を促します。
このドラマでは、過去と現在、喪失と再生といった対比的なテーマが描かれますが、それぞれの時代の“温度感”を音で表現している点が印象的です。
例えば、震災直後の混乱や不安には緊張感のある旋律が、時間が進むにつれて穏やかな音色へと変化していきます。
これは視聴者が、物語の時の流れと心の成長を体感できるよう計算された演出です。
また、音楽は登場人物の心情に寄り添うだけでなく、舞台となる町や自然環境の“空気感”を伝える役割も果たしています。
それにより、視覚的には映されない風や空気の流れすら、音楽を通じて“感じる”ことができます。
視聴者の五感に訴えかける演出として、音楽が中心にある作品といえるでしょう。
このように、『地震のあとで』は音楽を通じて、ただの映像作品ではなく、“感情の体験”を提供するドラマへと昇華しています。
大友良英氏をはじめとする制作陣が作り出した音の世界は、多くの人の心に長く残り続けることでしょう。
音楽が物語を支えるとはどういうことか――その答えが、この作品には詰まっています。
- 音楽担当は『あまちゃん』などで知られる大友良英
- 静寂と余韻を生かした劇伴が作品全体を支える
- 江藤直子や近藤達郎など実力派ミュージシャンが参加
- セリフのない場面で音楽が感情を語る仕組み
- “間”と“無音”の演出により深まる視聴体験
- 音が消えた後にも感情を残す余韻の演出が秀逸